イスラム世界の代表的な物語アラビアンナイト(千一夜物語)。
そのなかでは、さまざまな植物や香り、化粧、ハマム(蒸し風呂)の習慣など、豊かで贅沢なイスラム美容文化が語られています。
たとえば……。
荷かつぎ人足と乙女たちとの物語
バグダッドで荷かつぎをしている独身男の前に、ある日突然、美女が現れ、「ついていらっしゃい」と誘います。
夢心地で男がついていくと、女性は途中で果物屋に立ち寄り、買い物をしました。
シリアのリンゴ、オスマニ(南アジア)のマルメロ、オマーンの桃、アレッポ(シリア)のジャスミン、ダマスカス(シリア)の蓮、ナイル河のキュウリ、エジプトのレモン、スルタンのミカン、ギンバイカの実、ヘナ(ヘンナ)の花、深紅のアネモネ、スミレ、ザクロの花、水仙。
これらの品々からは、鮮やかな色と芳しい香りが想像できますよね。
女性が果物屋で買った品物を籠に入れ、荷かつぎ男は後をついていきます。
次に肉屋に立ち寄り、買った肉をバナナの葉に包んで籠に入れました。
男性はそれを持って、女性についていきます。
今度は、アーモンド売りの前で立ち止まり、あらゆる種類のアーモンドを買います。
そして、お菓子屋で、レモン風味のパイやジャム、クッキーや焼き菓子など、さまざまなお菓子を購入します。
あまりの量に、「騾馬を引いてきたらよかった」と荷かつぎ男はもらすほど。
これらの買い物シーンを読んでいると、迷路のようなアラブのスーク(市場)を歩いているようで、楽しくなります。
美女の後を、荷かつぎ男が重い籠をかついで、ひょこひょこ追いかける姿を想像するのも面白いですね。
ところで、アーモンドは、アラブ圏のお菓子や料理によく用いられる食材です。
もちろん、アーモンドから抽出したオイルは、美容と健康に欠かせないアイテム。
“あらゆる種類のアーモンド”のなかでも、スイートアーモンドが最もポピュラーです。
荷かつぎ男を伴った女性は、最後に、香りの品をどっさり買います。
ローズウォーターやオレンジフラワーウォーター、麝香(ムスク)入りのローズウォーターが入ったスプレー瓶、男性用の香りの粒、伽羅の香木、龍涎香(アンバーグリス)、麝香(ムスク)、そして、エジプトのアレキサンドリア産のロウソク。
これら全部を籠に入れ、女性は荷かつぎ男に、「籠を持ってついて来てください」と言います。
ここでは、ローズウォーターやオレンジの花水を清涼飲料水と表現しています。
商品を購入したのは、酒屋のようですが、現在のスーク(市場)によくある、スパイス専門店だったのかもしれません。
女性が買ったのは、濃厚な香りの品ばかり。
籠からは、さぞかしエキゾチックで甘美な香りが放たれていたことでしょう。
これらの香りは、いまでもアラブ地域で好まれています。
大量の商品が入った籠を運び、荷かつぎ男は女性の家に招かれます。……