アラブ人に一番人気ともいえる香りが麝香(ムスク)です。
本物のムスクは、ジャコウジカの分泌物から抽出されますが、ジャコウジカは希少動物でもあり、現在は天然モノを手に入れるのはほとんど不可能です。
代用品としてよく使われているのが、アンブレット・ムスクシード。
乳白色の四角形の人工ムスクは、モロッコのスーク(市場)でも販売していました。
2010年にモロッコで購入した親指ほどの大きさのムスクは、10年近く経ったいまでも強く甘い香りを放っています。
アラブの人たちは、女性も男性も、この固形のムスクをそのまま身体や洋服にこすりつけます。
ムスクには、皮膚に栄養を与え、若返らせる効果があるといわれ、ボディオイルとしても用いられています。
アルジェリア南部では、ムスクとクローブに、パチョリやバラを練りあわせ、固形香水を作るそうです。
この練り香水をネックレスやイヤリングなどのアクセサリーにして、つねに身に着けるとか。
麝香(ムスク)と並んでアラブ人に好まれている香りが、龍涎香(アンバーグリス)です。
マッコウクジラの分泌物から抽出されたアンバーグリスは、アラビア語でアンバルと呼ばれ、7世紀初めにアラブ人に使われはじめ、世界に広まっていきました。
アンバーグリスは、薫香や香油として用いられるほか、コーヒーなどの香りづけにもされたそうです。
医薬品としても貴重品で、13世紀の薬学者イブン・アル=バイタールの書物に、その薬効が記されています。
それには、
「心臓や脳など神経系統やすべての器官の強壮。
顔面麻痺や中風にも効果がある。下痢と胃の衰弱の内服薬として有効」
とあります。
アンバーグリスの官能的な香りは、快感をもたらすといわれています。
「飲み物にアンバーグリスを少し入れて飲むと、たちまち酔ってしまう」そうで、媚薬として大いに用いられていたといいます。
天然のアンバーグリスは超高価で、現在はほとんど手に入りません。
香水などに使われているのは合成香料です。