アラブのコスメグッズではずせないのが、「コホル」と呼ばれる真っ黒い粉。
細い棒に粉をまぶして、アイライナー&マスカラとして使います。
女性たちが好んでアイメイクをするのには、魔除けの意味もあるからです。
イスラムでは、「邪視」が恐れられていて、幸福な人や美しい人、子どもたちなどは特に、「邪視」を持つ悪魔に凝視されやすく、災難を招くといわれています。
そこで、悪い視線を撥ね退けるためにコフルを用い、キリッとアイラインを引き、まつげを長くした“目”に仕上げるというわけです。
コホルは何役もこなすアイメイク・アイテム。
手のひらにコホルを取り、ローズウォーターやオレンジフラワーウォーターで少し湿らせて目のふちに伸ばせばアイシャドー。
コホルの原料の黒い鉱物アンチモンは、紀元前4千年頃の壷の装飾にも使われていたそうです。
アンチモンは、顔料だけでなく、医薬品としても知られていました。
コホルは古代から眼の洗浄薬や目薬として知られていました。
眼の痛みやかゆみを抑え、視力をよくする効果があるそうです。
コーランでも使用を奨励していて、結膜炎、炎症、赤目といった眼病に効くだけでなく、強い光、砂やハエが原因で起こる眼の伝染病も防ぐといいます。
薬効もあるコホルをほどこされた目は、善の視線を投げかけるといわれています。
古代エジプトでは、太陽のまぶしさから目を守るアイブラックとして、コホルを用いていたそう。
そう、野球の選手などが目の下に塗っている黒いアレです。
古代エジプトのメイクでも印象的なくっきりアイライン。
コホルは重要なアイメイクで、古い文献から、コホルの引き方には2種類あることがわかったとのこと。
ひとつは、目のきわに沿って細いライン描く方法。
もうひとつは、こめかみに向かって切れ長に太めに入れる方法。
太目のラインを描くときには、マラカイトグリーンを加えました。
グリーンには清浄の意味があり、神聖さを表現するといわれています。
コホルは市場などで買うことができます。
昔、モロッコのラバトでは1袋8ディラハムでした。
コホルは袋や小瓶で売っていますが、専用の容器に入れ替えて使います。
コホル容器はお洒落グッズのひとつで、ゴージャスなタイプからシンプルなものまで、素材も形もさまざま。
こちらの木製コホル入れは、市場で手に入れた安物です。
同じ素材で作った棒状の蓋は、美しく完璧なラインを引くために、先が細くなっています。
目をつぶった状態で上まつげと下まつげの間に、黒い粉をまぶした棒をはさみ、目じりに向かってスーっと手を動かすと、目の際に沿ってアイラインを引ける…。
はずなのですが、目鼻立ちのはっきりしたアラブ女性向けかも。
私が試したら、「お笑い」になってしまいました。
最高級品のコホルは、女性たちの手作りだといいます。
アンチモンの粉末を香木やナッツ類の種と一緒に燃やし、その煤をさらに細かい粒子にして仕上げます。
レシピは地方によって違い、没薬、乳香、シナモン、クローブといった樹脂やスパイス、アーモンド、黒オリーブ、ブラックペッパー、デーツなどの種子が原料として用いられるそう。
ところで、先日会ったアラブ人男性が、「イスラム美容といえば、コホルだね。男性用もあるし」と言っていました。
ん、男性用?
古代エジプト時代にコホルが愛用された理由は、「表情豊かに語る」目元を強調するためだったとか。
今も、あまり変わりませんね。