田舎の杉の木の香り。
金木犀の花の香り。
誰もが香りに思い出をもっているはずです。
高齢者が若かりし頃の日本は、いまよりも自然にあふれ、さまざまな香りに触れることができたのではないでしょうか。
介護者もまた、家族で過ごした子供の頃の懐かしい香りがあるでしょう。
香りがコミュニケーションの道具となるのをご存知ですか?
愛する気持ちや感謝の思いを口で伝えるのは恥ずかしくても、香りを通して、お互いの心が触れ合うこともあるのです。
高齢者にはすでに知っている香りから
代替医療としての期待が高まっているアロマテラピーですが、日本ではまだ正しく理解している人が多いとはいえません。
ましてや、高齢者にとっては未知の療法で、疑心暗鬼になるのも当然です。
高齢者にアロマテラピーを導入するには、すでに知っている香りに似た精油から少しずつなじんでもらいましょう。
たとえば、フルーツの香りなら、高齢者も抵抗なく受け入れることができるはずです。
「この香り、コタツで食べたミカンに似ているわね」といった会話をしながら、香りに親しんでいきましょう。
香りの印象について聞くなどして話を発展させる方法は、脳の活性化にも役立ちます。
スイートオレンジ、マンダリン、ベルガモットは、いずれもミカンや八朔を連想させます。

コタツで家族が集まって食べた日のことや、夏の日の出来事が思い出されるでしょう。
同様に、レモン、グレープフルーツも柑橘系の果物の香りがします。
また、カモミールはハーブですが、少しリンゴのような香りがします。


料理の好きな人なら、バジル、クローブ、コリアンダーといった香辛料の香りに興味を持つかもしれません。大好きなカレーの匂いといったところでしょうか。



レモングラスは、タイ料理のトムヤンクンのような匂いです。
お酒好きには、ジンの原料となる杜松の実から抽出したジュニパーが好きになりそうです。
田舎の樹木の香りも、高齢者には懐かしいものでしょう。
サイプレスは糸杉、シダーは杉、バーチは樺の木のすがすがしい香りがします。ヒノキのお風呂を想像する人もいるでしょう。

花から抽出する精油もあるのですが、華やかな香りはそれほど多くはありません。
ローズは気品高いバラの香りがしますが、精油はかなり高価です。

ゼラニウムはバラの香りにていて、少しリーズナブルです。
サンタルウッドの日本名は白檀で、高齢者には馴染み深いと思われます。
ペパーミントはガムや歯磨き粉、ティートリーやユーカリは湿布のような匂いがします。子供の運動会といった昔の行事がよみがえるかもしれません。


好きな香りを選んでもらって
嗅覚は年齢とともに衰えるので無理は禁物です。
香りを試すときは、いくつもの香りを嗅ぐのではなく、一日に2~3種類を目安にしましょう。
また、長時間香りを嗅いでいると、頭痛や吐き気といった症状がでることもあるので気をつけましょう。
アロマテラピーの精油にはそれぞれ特有の効用がありますが、嫌いな香りを押しつけても、症状がよくなるとはいえません。
高齢者の好きな香りを選ぶことがなによりも大切です。高齢者と会話を楽しみながら、ひとつひとつ香りを確かめていきましょう。
最初の1本を選ぶとしたら、万能薬ともいえるラベンダーの精油がおすすめです。

ラベンダーの精油があれば、不眠や不安、痛み、殺菌と、さまざまな目的に使うことができます。
ただ、ラベンダーの香りは、日本人にとってそれほど一般的とはいえないようです。最近はよく見かけるハーブですが、ラベンダーといわれても、ピンとこない高齢者も多いでしょう。
アロマテラピーの精油のなかには、これまでに嗅いだことがない香りも少なくありません。そのような香りを取り入れるには、介護者がその香りをつねに漂わせ、高齢者に慣れてもらいましょう。
介護者がラベンダーの香りを身につけたり、アロマライトやスプレーで積極的に使います。
「この香りは何?」と高齢者が興味を示したら、ラベンダーやアロマテラピーについて説明します。「どうせわからないから」と言葉を濁したり、隠したりするのはよくありません。
明らかに不快な表情をしたときには、さりげなくその理由を聞き、使用を避けたほうがいいでしょう。
香りの好みには個人差があります。介護される側が心地よいと感じる香りであることを最優先しましょう。
「忘れっぽい」と感じときの香りは?
記憶をとどめる効能は、いくつかの精油に認められています。
よく知られているのは、ローズマリーとペパーミントです。
記憶機能改善作用のある精油
ローズマリー

ペパーミント
カルダモン

ラベンダー
ゼラニウム
コミュニケーションとアロマテラピーが脳の活性化に有効だとはいっても、ボケの進行を完全に止めるわけではありません。
認知症は忘れっぽいと感じることからはじまるケースが多いようです。
しかし、老化による単なる物忘れと認知症(ボケ)には大きな違いがあります。それらを混同しないようにしておきましょう。
お年寄りが忘れっぽいと感じたときには、ノートや書き込み可能なカレンダーを用意し、メモをとるようにするのがよいでしょう。
本人が書き込むようにするのがよいのですが、それが難しい場合は、家族が手伝っていっしょに書くようにします。
日にちや時間の感覚を失わないようにするには、大きなカレンダーを見えるところにかけ、今日が何日、何曜日という日付を認識させるようにするとよいでしょう。
ホワイトボードなどに本日の日付と曜日が書き込める欄を作るのもよい方法です。
時間の感覚を失わないようにするには、朝起きて3食きちんと食べて、夜寝るといった規則正しい生活も大切です。
おやつの時間を決めておいたり、日中は布団をあげておくなども、生活にメリハリをつけるのに役立ちます。
また、場所の感覚を失わないようにするには、トイレや浴室に「トイレ」「お風呂」と文字で書いたり、イラストで目印をつけたりするとわかりやすいでしょう。
廊下などにトイレに行くための誘導の目印をつけるのもよいでしょう。
ものをどこにしまったか分からなくなるときには、日常よく使う財布やバッグ、手帳、めがねなどは置く場所を決めるようにします。